災害リスクアドバイザー 松島康生 

ハザードマップの落とし穴と正しい理解③(洪水・浸水編)

ハザードマップの落とし穴と正しい理解の第3回目は洪水・浸水編です。
◆洪水ハザードマップの目的
洪水ハザードマップは、河川が大雨などにより堤防が破堤した場合、浸水が予想されるエリアや避難する場所などを地図上に示し、その内容を住民の皆さんに印刷物やホームページなどで知らせることにより、自主的な避難や普段からの備えに活用してもらうことを目的として作成されています。
これは河川を管轄する国土交通省の地方整備局や都道府県が調査し、ベースとなる被害予想図を作成しています。これを基にして各市町村が住民向けに洪水ハザードマップとして作成しています。
近年では河川による洪水ハザードマップだけではなく「内水氾濫」による被害が急増しているため、浸水マップや内水被害マップなどと称して発行している自治体もあります。

●洪水と内水氾濫(はんらん)の違い

国土交通省資料を基に日経BP社が作成「都市の下水道処理能力」

国土交通省資料を基に日経BP社が作成「都市の下水道処理能力」

一般的な洪水ハザードマップは台風や豪雨による堤防の決壊を指し、これらを外水氾濫とも言います。
一方、内水氾濫は、河川の堤防決壊とは異なり、近年、増加傾向にある集中豪雨(ゲリラ豪雨)などにより、下水道の排水処理能力を超えて溢れてしまう状況を指します。
特に市街地化された地域では、土への浸透が減り、低地帯への浸水、マンホールの逆流、地下への流入が起きることがあります。また、河川の増水により逆流する場合もあります。
このような要因で引き起こされた浸水を内水氾濫(ないすいはんらん)といい、都市型水害とも言われています。
◆洪水ハザードマップの賢い使い方
①お住まいの自治体で発行されている洪水ハザードマップを参考に、洪水時、自宅がどのような危険があるのかをあらかじめ把握しておきましょう。
②浸水の恐れのある地域にお住まいの方は、どの程度の浸水深(浸水の深さ)になるのかをあらかじめ把握しておきましょう。
⇒河川に近い場所や100cmを超えるような場合は、避難のための計画をあらかじめ建てておく必要があります。
⇒50cmを超える浸水深(床上浸水)の場合は、すぐに移すことが困難な大事な家財を2階へ移動しておく事をお勧めします。
③どこへ避難するべきなのかを確認して下さい。
⇒どこの避難所が適切なのか。どのルートを使えば良いのかを2通り以上検討しておく事をお勧めします。
④河川に近い場所に住んでいる方は、降雨量の情報収集をしましょう。
⇒気象庁や自治体からの、大雨洪水警報や注意報の発令
⇒河川情報の入手・・・川の防災情報( http://www.river.go.jp/
⇒特に河川の上流域の降雨量にも注意しましょう。時間が遅れて河川が増水します(タイムラグ)。
⑤洪水の危険がある時は、早期の避難行動を。
⇒特に高齢者や小さなお子さんなど、要援護者が居る場合は、早めの避難行動が必須です。
⑥洪水ハザードマップで危険度が低い地域においても、破堤箇所や破堤規模によっては範囲が拡大する恐れがあることを念頭においておく必要があります。
◆洪水ハザードマップの落とし穴(注意点)

① 高低差を見極める

避難方向を示すマップ

避難方向を示すマップ

ある自治体の洪水ハザードマップの事例ですが、矢印で避難方向を示してありますが、調査の結果、このまま避難してしまうと危険性が高いことが分かりました。避難方向の途中に小さな河川があり、この場所は内水氾濫が起きやすく、過去にも浸水深50cm以上の浸水が発生しています。
このように避難途中の高低差によって、避難が困難になる道路や地域もあるため、あらかじめ避難路となる地域の高低差を見極める必要があります。
② 複合的な危険
洪水ハザードマップは、洪水時の範囲や危険度を示しているため、複合的な災害まで表示されていないことがあります。
例えば「土砂災害」。 大雨時は土砂災害が発生する危険度も増加します。がれ崩れなどを考慮した避難路を把握しておく必要があります。
次に「鉄道や高架下などアンダーパスのトンネル内」。 車高の高いSUV車であっても、前車が立ち往生してしまったらアウトです。
※日本自動車連盟の冠水路走行テストによると、SUVタイプのテスト車(時速30km)であっても、浸水深60cmで、エンジン内部に水が入ってしまった事例もあります。
③ 避難所は1つだけじゃない
自治体によっては適切な避難所が無いため浸水予想エリアでも、やむなく避難所に指定している場合がありますが、浸水時の避難移動は危険が伴うため、別の避難所も検討しておきましょう。
また、多くの自治体は自分の自治体で完結しようとエリア内の避難所しか記載されていないのですが、近隣市町村の方が近く、安全な場合は、隣の市町村避難所も選択肢に入れましょう。
◆洪水が発生する前(予防対策)
① 自分の住む場所と周囲の高低差を確認する。
自分の住む家が、周囲や河川堤と較べて高いのか、低いのか、避難路となる高低差などを確認する必要があります。
普段から通る道でも、緩やかな高低差は意識をしていないと分かりづらいものです。
確認するためには、自治体発行の1/1,000~1/2,500の地形図や都市計画図(標高が記載されています)が適しています。 また、国土地理院より試験公開されている「標高がわかるWeb地図」( http://saigai.gsi.go.jp/2012demwork/checkheight/index.html )で確認する事も出来ます。
② 避難に備えて
自分の住む家が浸水想定区域に入っている場合は、あらかじめ安全な避難路と避難所(他の自治体の避難所を含む)を複数検討しておきましょう。
浸水時の避難は非常に危険なので、早期の避難行動が必要です。 また、要援護者となるご高齢の方が居る場合などは、あらかじめおまいの自治体へ「災害時の要援護者支援」に登録されることをお勧めします。
③水害に備えるために
予想される浸水レベルに応じた準備をしておきましょう。上記の「◆洪水ハザードマップの賢い使い方」②を参考に!
※ 避難は本当に必要?
洪水時、必ずしも避難が必要とは限りません。 自宅の正確な地勢などを把握することにより、避難持ち出し品を準備するのではなく、備蓄品に重点を置くことも可能となってきます。
詳しく調べたい時は⇒ http://www.saigai-risk.com/personal.html
◆洪水が発生したら(応急対策)
① 不用意に歩かない
洪水で事故に遭われた方の話では「普段から歩き慣れている場所だから平気だと思った」「深さ30~40cm程度だから歩けると思った」「こんなはずではなかった」という証言が多々あります。
「自分だけは大丈夫!」「自分だけは死ぬはずがない!」という安易な過信から事故は起きています。
浸水した道路は、水面下が見えず多くの危険が潜んでいます。誤って縁石に足を引っ掛けてしまったり、マンホールの一部に足を落とす危険もあります。
また、流れのある場所では小さな砂利が混ざり、転びやすくなるため、洪水時は不用意に歩かないようにしましょう。
② 家内での対策
浸水が予想される場合は、電気製品や重要書類など大事なものから優先して2階へ移動します。
床上の浸水が予想される場合は、エアコンの室外機や配線類から漏電の危険性があるため、ブレーカーを落としておきましょう。
※なお、家を浸水させない具体的対策は、後日、掲載予定です。
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松島 康生
この記事を書いた人
災害リスク評価研究所 代表
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